今回の講演内容はレスター・ブラウン氏が既に出版しているご著書、『プランB』に続く内容となりました。
下記、その内容の要約です。
「プランB2に向けて」
本日、講義の機会を与えてくださった日本環境財団と福岡克也理事長に感謝申したい。
福岡博士は、もとい 30 年前より、地球環境の悪化に対し警告を発し、われわれに対して先駆的な仕事をしてこられた。
特に、地球の森林の保全と再生に対する貴重な提案を数々提示し、国連環境計画に対しても、提言をしてきた。特に森林は経済的資源としてだけでなく、洪水防止、水源涵養、大気浄化、水質保全、野生生物の保護など環境的資源の価値が大きく、このことを具体的に計測して示されていた。森林の価値を福岡博士の言うように把えていたら、今日世界の森林の荒廃はなかったであろう。
さて、私は2006年の春には「プランB2」という新たな提案を世に出すことにしている。その「プランB2」の骨格のなかから、講演させていただくこととしたい。
今日当面している問題として、石油価格の高騰と地球温暖化問題がある。石油価格の高騰は、回り回って世界の経済や物価を脅かしている可能性がある。にも関わらず、地球温暖化の影響も拡大しつつあり、アルプスやヒマラヤの氷が融け、熱波や干ばつが各地を襲っている。
こうして、2005年(今年)のこの数ヶ月米国では将来に対する明らかな懸念が生じてきている。
1992年にフロリダを襲ったアンバリュー(ハリケーン)で6000戸の家屋が破壊され被害は300億ドルに及んだ。1998年には中国の
長江の洪水で300億ドルの被害が生じた。この額は中国の一年間のコメの全収穫高に相当している。2005年(今年)アリゾナやミシシッピイを襲ったカトリーナ(ハリケーン)では200億ドルの被害を生じ、都市や家屋は完全に破壊され、恐らくこの完全な回復には長期の時間(数年)を要することになるだろう。最近のこうした自然の災害から都市は十分に守れるとは言えなくなってきた。
ブッシュ政権は京都議定書の批准を拒否した(2001年の決定)。しかし180の米国の都市では、この議定書の趣旨に
従って、具体的な行動を起こしている。デンバー、ニューヨークでの草の根運動がまき起こっている。これは一つの革命的な動きでもあり、これらの草の根運動とワシントンDC(政府)とが全く運動していない状態である。このような草の根の急速な動きは、米国人の将来の懸念が急速に大きくなってきていることを示している。
これに対して、政策の変革と経済の構造転換が求められている。これからこのような状態が続く限り地球の持続性は保てなくなるだろう。環境のトレンドのすべてが、一つになって悪化している。特に中国の現状は非常に悪い状態に向かっていると考えられる。
かつて米国は世界の資源の消費の3分の1を占めていたが、中国の消費の拡大は近い将来米国を上回ってくることは間違いない。
中国は今、穀類、肉類、石炭、石油、鉄鋼などの消費を拡大しつづけ、やがて石油は米国を上回り、穀類、肉類では米国の2倍、鉄鋼については米国の2.5倍にも達するであろう。
中国の消費レベルはトータルとしては米国にとって変わるであろう。中国の現在の経済成長率は年率9パーセントのレベルで
進んでおり、このままで行くと、中国の消費の増大が、世界経済に大きな影響を与えることになるだろう。仮に8パーセント位に落としたとしても、1人当たりの国民収入レベルは、2008年には米国のそれと並ぶことになるであろう。2031年では14億5000万人の人口になり、世界の穀物3分の2を中国が消費してしまうことになるだろう。紙の消費は中国は世界の紙消費の2倍の消費レベルに達することになろう。中国も1戸3台位の車を持つことになると少なくとも11億台の車となり、現在世界全体での8億台をはるかに超えることになり、米国と同じ消費パターンになるであろう。穀物などの確保のため米の耕作地の全世界の全面積に相当する土地を必要とすることになる。
中国が石油も日 990万バレルも使うことになると、現在の全世界の840万バレル(1日当たり)を超えることになり、石油について最早、限界をはるかに超えてしまうことになろう。
このような状況のもとでは,最早、中国が西欧型の経済モデルを求めても、当てはまらなくなって、恐らく無理ということになる。
2003年にはさらに多くの(16億人を超える)人口を抱えるインドも同じように西欧型経済モデルを求めても無理な事になる。まして30億人の人口を抱える途上国においても無理と言わざるを得ないので、今やアメリカンドリームを追い求めたとしても、それは成り立たないということになるであろう。
すべての国が、この限られた地球(一つのところ)から、資源を獲らなくてはならないのだからその供給力を超えた過剰な消費は成り立たなくなるのである。
全世界で持続可能な経済をこれから更めてやり直すというとなると、化石燃料を中心とした経済から、再生可能なエネルギーなどの資源を使う経済に変わらなくてはならないであろう。交通手段も車だけでなく、多様な交通手段の利用が必要であり、さらにリサイクル経済と言う循環的な新しい経済を作らなくてはならない、と言うことになる。
今のように石油の価格が1ガロン40ドル、60ドルと上がり続けるとこれに伴って食糧のコストも上がるであろう。
また食糧から燃料の供給にも向かっていく方向が生まれてきつつある。バイオのエタノール工場が必要になる。コーンや砂糖キビなどのバイオのエタノール化である。ブラジルではコーンのエタノール化などに50ドルも投資している。コーンベルトの利用ということでニューヨーク州、コロラド州でも始まっている。アイオワ州でも大豆のエタノール化の工場がつくられている。
途上国の20億人の飢えた人々への食糧の為か、バイオの燃料化で豊かな人々の車のガソリンの燃料化のためか、新しい厳しい選択が始まっている。
新しい経済への転換が必要である。温暖化防止や石油値上げへの対策として、ガソリンの使用を減らす方向に進むべきである。
ハイブリット車への移行、燃料電池化をはかり、石油の使用を減らすことが望まれる。
10年間ハイブリット型を使えば石油を半分に減らし、電気自動車で近くへ行けば10パーセントも石油が減らせる。
また風力で電力を賄う。ガソリン燃料、電池、風力などを組み合わせ、全体として補充的に使っていけば石油燃料の使用を大幅に減らすことができる。充電の為風力を使う場合、午前1時から5時までの間にすれば1ガロン当たり50セントくらいになる。
トヨタのハイブリットに大いに期待している。米国用の特注品を作ってくださいと期待したい。
※尚、フロアーからの質問に答えて次のコメントを頂いた。
環境に関連して、人類が特に注意を払うべきこととして、貧困をなくすということが重要である。貧困が進むと、そのために国家すら破滅してしまう恐れがある。既にソマリヤ、ハイチ,コンゴなどの国々は国家の形成に失敗している。
経済での通貨のシステムの破壊は、感染症(鳥インフルエンザ)の拡大などとともない、人類の運命にとって暗い影を落としている。
貧困の問題は、すべての人類にとって共通の利害関係を持つ問題となり、この解決は少なくとも今回は間に合うかも知れないが、明日間に合うとは言えないのである。 |